私が最初に飲んだフランスのシードルは、ブルターニュ地方のDomaine Dupont.やノルマンディー地方のEric Bordeletでした。彼らは「キーヴィング」という手法を用いて醸造を行っています。
キーヴィングはイギリス西部やフランス北西部特有の伝統的な醸造方法で、それは、早い段階からカルシウムイオンを利用し、ペクチンとの複合体化によってリンゴ果汁から窒素源を取り除き、ゆっくりと長く発酵させて自然な甘さを残す製法です。
リンゴ果汁に含まれるペクチンエステラーゼ酵素がゆっくりとペクチンをペクチン酸に変化させます。このペクチン酸が果汁中のカルシウムイオンと架橋してゲルを形成し、「茶色の帽子(chapeau brun)」が現れます。
一般的にリンゴ果汁の酸度が高過ぎるとキーヴィングは失敗し易く、リンゴ酸の値が4.5(g/L)以下になるようなBitter Sweet種が主に用いられます。
リンゴの糖度は最低でも12%であることが望ましく、2022年の長野県は雨の影響で糖度が比較的低いリンゴが収穫できたので、キーヴィングには適した時期でした。
サノバスミスの“シードル”では、あえてドルゴクラブを使用、更に熟成ホップやHBC586を多用することで、生食用だと獲得できないBitternessやAstringencyを加え酸度の高いサノバスミスらしいキーヴィングに挑戦しました。
リンゴの甘やかな香り・ミネラル感・畑を想起させるホップの香りが特徴です。一口飲むと甘味・酸味・苦み・渋みが交互に押し寄せるような大変印象的な作品に仕上がっています。
これが「Japanese Keeved Cider / Keeved Hop Cidre」の最初の事例です。新しい概念とともにこの作品をお楽しみください。