今回のバッチはDomaine Oyamadaの「BOW! 白」で使用されているデラウェア(山梨市万力, 西山地区)の甘味と酸味、フレッシュホップ特有の渋みをより体験して欲しいので、炭酸の量はサノバスミス史上一番弱い設定(GV:1.8)でボトリングしました。スティルワインのように口の中で転がして渋みを探ってみて下さい。
大量のフジに酸度の高いドルゴクラブと熟成ホップを組み合わせた原酒を使用。フジは醸造に不向きであると言われている理由は、酸味や苦渋みがほとんどないからです。このフジを使ったサイダーに複雑な酸味や苦渋みを組み合わせたらどうなるのかを常に考えて、今までに様々なフジベースのサイダーを醸造してきました。サイダー醸造におけるフジの有効活用方法の模索は永遠の課題です。
今回のテーマは、「デラウェアのフォクシー香(狐臭)に、熟成したフレッシュホップを掛け合わせたらどうなるのか」です。デラウェアの特有香であるアントラニル酸エステルのメチルアンスラニレート(通称ラブルスカ香)は、日本ワインの主力葡萄品種(ラブルスカ系の甲州、マスカットベリーA、デラウェア等)に含まれる甘い香りの成分です。つまり、日本ワインの特有のフォクシー香ですが、フランスではオフフレイバーに認識するといわれ、ビニフェラ系のメルローやシャルドネ、ピノノワールには含まれない成分になります。このメチルアンスラニレート、実はリンゴの必須フレイバーの主成分の一つであり、フレッシュホップと組み合わせたら、サイダー全体のバランスが取れるのではないかと考えました。メチルアンスラニレートは揮発性が非常に高いアロマになりますが、フレイバーに溶け込ませると、dry(SG:0.997)でも甘味を感じます。とっても不思議ですよね。
Domaine Oyamadaさんのぶどう収穫をお手伝いした時の打ち上げで飲んだ「BOW! 白(デラウェア)」にも甘味を感じました。このパイナップルキャンディーのような甘味はAll by homiesでも表現できています。そのほか、酸味はサイダーでは感じることのないぶどう特有の酒石酸をベースに、乳酸菌由来の乳酸やリンゴ酸を感じます。
今年のサノバスミス産カスケードは、(乾燥したものだと)紅茶やセスキテルペンの香りが全快で、木やスパイスの様なニュアンスが強く、リーフを割いてルプリンを嗅げばシトラシーな香りがします。フレッシュホップは青臭さが特徴と言われていますが、未熟なホップをきちんと選別して熟したホップのみを収穫すれば青臭さはほとんどありません。フレッシュホップを真二つに割いてルプリンをむき出しにし、20℃で5日浸漬させたフレッシュホップサイダーは青臭さをほとんど感じない、とても素晴らしいシトラシーな出来栄えです。苦みはほとんどなく、渋みのニュアンスは特に乾燥ホップにはない味わいです。
フレッシュホップの可能性は今後リリースするサイダーでも探っていくつもりです。第一弾、ブドウ粕 × フレッシュホップサイダーのポテンシャルを味覚で体感してみて下さい。
引用文献 1): 石川県農林総合研究センター農業試験場研究報告31: 17~28 (2015)